クロザリル(クロザピン)とは
クロザリル(商品名。一般名はクロザピンclozapine)は、治療抵抗性の統合失調症に対する治療薬です。一般的な抗精神病薬(統合失調症の治療薬)として、リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール、ブロナンセリン、パリペリドンなどが挙げられますが、これらの薬剤を使用しても十分な効果が得られない、または強い副作用が出現してしまう方がいらっしゃいます。このような病態を「治療抵抗性」と言います。クロザピンは治療抵抗性の統合失調症に対して比較的高い確率で効果を示します。
クロザリルの効果
統合失調症の方で、妄想、幻覚、興奮、攻撃性、意欲低下、病的多飲水などの症状が持続し、通常の抗精神病薬で十分に良くならない場合、クロザリルの投与が検討されます。通常の抗精神病薬を少なくとも2剤以上、十分量かつ十分期間使用しても症状が改善しなかった方のうちの、概ね半分から3分の2の方が、クロザリルの投与によって改善します。
クロザリルの副作用
クロザリルを服用するにあたって、最も注意しなければならない副作用は、血液中の白血球の減少です。クロザリルを服用する患者様のうちの1%程度が、白血球が極端に少なくなる「無顆粒球症」という病態に至るとされています。これを放置してしまうと、重い感染症にかかる可能性が高くなります。しかし、頻繁に血液検査を行って白血球の減少を早期に把握することにより、このような致命的な病態に至ることを防ぐことができます。実際、国内の治験および市販後調査において、無顆粒球症による死亡例は報告されていません。
クロザリルにより、血糖値が上昇することがあります。しかしこの副作用は通常、一般的な抗精神病薬であるオランザピンに比べて軽度です。
まれではありますが、クロザリルの服用開始後早期に、心筋炎、心膜炎、心筋症などが出現することがあります。入院中の体温測定などにより、早期発見に努めます。
必要な治療期間
白血球減少などの副作用に対応するため、製薬会社や厚生労働省が中心となって、CPMS(クロザリル患者モニタリングサービス)という管理システムが作られています。医師や薬剤師は、検査データやクロザリルの処方量について、即時にCPMSに報告する義務を負っています。
CPMSにより、入院期間は原則18週間以上と定められています。白血球減少症は、ほとんどの症例において、この期間に出現するからです。ご家族と同居されている方の場合は、これより短い期間で退院できることもありますが、退院が早すぎると退院後に危険な副作用が出現する可能性が高まります。通常、概ね3ヶ月以上の入院が必要とお考えください。
入院中・外来通院中を通じ、当初の半年は毎週、次の半年は2週に1回、その後は4週に1回の血液検査が必要です。白血球数や血糖値の値によっては、これより高い頻度で血液検査が必要となる場合もあります。
クロザリル治療を希望される場合
クロザリルは効果の高い薬ですが、投与開始のためには、様々な条件を満たす必要があります。前提として、統合失調症が正しく診断されている必要があるので、医師による事前の丁寧な診察が欠かせません。また、治療抵抗性の統合失調症に対しては、修正型電気けいれん療法(m-ECT)という選択肢もあり(当サイトの別ページをご参照ください)、比較検討が必要かもしれません。クロザリル治療を検討される場合は、まず当院の医療相談室までご連絡ください。