インタビューした先輩
神奈川病院 3階病棟
看護助手
澤田 佳代子
2008年7月入職

相手から必要とされている
という実感を
- こちらに来られる前に、どこかで看護助手の仕事をされていたのでしょうか?
いえ、それまでは医療や福祉とは関係のない仕事しかやったことがなく、まったくの未経験でした。でも身内に看護師がいたので、その人から助手の話も前から聞いてはいたんです。人と関われるお仕事だなと思って、もともと興味は持っていました。
- 人と関わる仕事をしたいという気持ちは前からあったということですね。
そうですね。医療・福祉ではないけれども、それまでも人と関わる仕事ではあったし、やっぱり自分が相手から必要とされているんだ、ということを実感できる仕事がしたいと思いました。おじいちゃんやおばあちゃんと接するのも好きでしたしね。
それで、神奈川病院の看護助手の仕事があることを人づてに聞いて、応募して来ました。
- 3階病棟(認知症治療専門病棟)はご自分で希望されたのでしょうか?
特に希望したわけではありませんが、面接の段階で、当時の看護部長に「たぶん認知症病棟を見てもらうことになります」とは言われていました。
- 認知症病棟の看護助手の仕事がどういうものか、入職前にわかっていましたか?
おむつ交換があるんだろうなとか、そういうおおまかなイメージしかなかったです。面接のときに病棟を見学させていただきましたが、その時には具体的な仕事の様子まではわからなかったので、実際に入職した時には右も左もわからない感じで緊張しました。
- 最初は誰か先輩に付いて、仕事を教わったのでしょうか?
そうです。先輩助手にくっついて、ずっと一緒に行動する感じでした。いまもそのやり方は同じで、新しく入った方は先輩とペアになって動きます。
- 実際に仕事を始めてみて、いかがでしたか?
最初のうちは、患者さんに何かあったらどうしようとか、トランス(移乗)やおむつ交換している時に怪我させちゃったらどうしようとか、もう恐怖でいっぱいでした。
- そういう恐怖はどうやって克服されたのでしょうか? やはり慣れでしょうか?
慣れと言えば、まあそうかもしれませんね。やっているうちにお互いの相性というのか、患者さんのなかで特に深く関わる方も出て来ます。そういう患者さんとお喋りなどしながら、なるべく相手がリラックスできるように、快適なように、と心掛けて仕事をしているうちに、どんどん慣れてきて、いつのまにか不安が薄れてきたように思います。

代表的な業務について
- ここで認知症病棟の看護助手の代表的な仕事を、具体的に挙げていただけますか?
おむつ交換、トランス(移乗)、食事介助、そしてお風呂介助、あとはシーツ交換、そのあたりでしょうか。
- 経験のない方には様子がわからないと思うので、具体的にひとつづつ伺いたいと思います。まずおむつ交換で気を付けることは何でしょう?
おむつ交換に関しては、やっぱり褥瘡が出来て欲しくないですから、お尻の状態をしっかり見てあげて、丁寧に洗ってあげたり、そういうところに気を付けますね。
- それを最初から一人でやるわけではないですよね?
新人さんは先輩とペアでやりますし、そもそもおむつ交換というのは夜勤・遅番・早番などの、人が少ない時間帯でない限りは一人でやることはあまりないと思いますよ。逆に言うと、慣れるまでは夜勤・遅番・早番には入れないということにはなりますが。
- 新人が慣れて一人立ちできるまでの期間には目安があるのでしょうか? ある日先輩から「もうそろそろ一人でやってみて」と宣告されるのですか?
と言うよりも、だんだん自然に一連の流れが掴めてきて、気づけばもう一人でも動けるようになっている、という感じだと思いますよ。
- そうなんですね。では次に、トランス(移乗)はどこに気を付けていますか?
トランスは、もちろん患者さんに怪我をさせないようにするのが最優先ですが、それと同時に、自分の腰にも負担をかけないように姿勢に気を付けないといけませんね。
あとは、少しでも患者さんが安心できるように、対応を工夫するところでしょうか。業務が押してくると、無言でパッパッと効率よくやりたくなるところですが、そこはやはり認知症の患者さんですから、いきなり手を出されたら状況がわからずに混乱することもあります。だからたとえば「この人は元気にフレンドリーな感じで行った方が落ち着くだろうな」とか、「この人はちょっと耳が遠いのでしっかりお辞儀してから目線を合わせて行こう」とか、そういうふうに丁寧にやっていくと、不穏になりやすい患者さんでも介護抵抗が少ないです。そうやって患者さんの特徴に合わせて対応します。
- 入り方によって、患者さんの落ち着き方はだいぶ違うのですね。
違うと思います。その患者さんの雰囲気に合わせた感じで話しかけてあげると、向こうも安心します。だって、入院している自覚がない方たちですからね。見も知らない人にいきなり手を出されたり、おむつ交換でお尻を開けられちゃったら、みんなびっくりして抵抗するのは当たり前ですから。

- ひとり一人の患者さんについて、こういう好みを持っているからこういうふうに接するといい、というノウハウは、各スタッフが自分で感じ取りながら工夫をしてやっていく、ということになりますか?
そうですね。重要な情報はもちろん電子カルテに記録されますが、ふだんの日勤帯はとにかく忙しく動き回っているから、いちいち電カルで確認している余裕はありませんし。でも、笑顔で目線を合わせて、しっかり声掛けをすれば、大抵は素直に受け入れてくれるように思います。
- では次に、食事介助で気を付けていることは何でしょうか?
まず少量ずつ口の中に入れて、ちゃんと「ごっくん」ってできたかどうか確認しながらやります。嚥下がとても悪い方は看護師さんが対応しますが、そこまで悪くなければ助手が食事介助します。ひと口ごとにちゃんと飲み込んでいるか、次に入れる時には口の中に残っていないか、確認します。
あとは、やはり食事の時間も楽しい思い出にして頂きたいんですね。その瞬間瞬間を楽しく過ごしてもらいたいと思って、いろいろと声掛けしながらやっています。
それから、食事が終わった後の口腔ケアですね。ご飯が残っているとそれが誤嚥に繋がってしまうので、しっかり口腔ケアをしてあげます。
- 食事介助と口腔ケアはセットなのですか?
大体そうですね。食事が終わったらもうすぐに口腔ケアなので、自分が食事を担当した患者さんにそのまま口腔ケアすることが多いです。
- わかりました。では次に入浴介助で気を付けていることは何でしょうか?
まずなにより転倒ですね。自立で歩ける患者さんもいらっしゃるんですが、歩ける患者さんこそ油断すると危ないです。だから「わたし大丈夫よ」とおっしゃってる患者さんには、「その大丈夫が危ないんですよ」などと声を掛けながら誘導します。
あとは、入浴時は全身の皮膚の状態をいちばんよく見られるので、しっかり観察します。たとえば湿疹が増えてたりしたら看護師さんに報告して繋いでいくようにしています。
- 転倒防止と皮膚の状態のチェックですね。では次にシーツ交換はいかがでしょう?何かコツのようなものはあるのでしょうか?
シーツ交換は、日を決めて看護師さんと一緒になってやるんですが、交換自体は誰でも出来ると思いますよ。ただ、やっぱり腰には気を付けなくちゃいけないので、新しい人とやる時は「こうやって前屈みになってやるんじゃなくて、もっと腰を落としてやった方が腰の負担は少ないよ」と伝えます。
- わかりました。これで5種類の主業務のポイントを伺ったわけですが、説明のなかに「腰への負担」という言葉が何度か出て来ました。腰はやはり痛めやすいでしょうか?
私はぎっくり腰をやったことはありませんが、やっぱり痛い時は痛いですね。予防のために腰痛ベルト(介護用の腰サポーターベルト)を付けてやっています。腰痛ベルトを使うと、ついついそれに頼った動きになってしまってベルト無しにはいられなくなってしまうんじゃないかと思って、あえて使わずにやっていた時期もあるんですが、その時はすごく腰が痛くなってしまいました。それからは無理しないで、基本はベルトをつけておむつ交換やトランスなどをするようにしています。

- 腰のことが気になる人は、自分に認知症病棟が務まるだろうかと考えてしまうかもしれません。やはり腰痛は避けて通れないものなのでしょうか?
人にもよるので何とも言えませんね。まったく大丈夫な人もいれば、30キロの軽いおばあちゃんを移乗しただけでぎっくり腰になってしまったスタッフもいます。そういう時は、負担を軽くできるところは軽くしたら良いと思います。たとえば、車椅子の患者さんでも立位だけは取れるという人も中にはいます。まったく立てない、立位も取れない患者さんだったら、これはもうがっつりと抱えなければいけませんが、少しでも立てるなら、患者さんにも協力してもらって動いてもらうといいです。
- やり方次第で予防できることもあるのですね。
患者さんが「その一瞬」を
落ち着いてすごせるように
- 澤田さんは認知症病棟のどのような部分にやりがいを感じていますか?
他の病棟の患者さんも好きなんですが、認知症病棟のやりがいですか。うーん、どう言えばいんだろう・・・。もちろん私も、介護抵抗が激しくて暴言や暴力がガンガン出て来る患者さんに対してはうまく対応できない時もあります。どうしても薬を飲んで頂くしかない時もありますしね。でも関わる時は、とにかく満面の笑みで接するようにしているんです。そうすると、ふだん抵抗の激しい患者さんでも少し落ち着くことがあって、そういう時にはやりがいを感じるというか、すごく嬉しいですね。いつもうまくいくわけじゃないですけど、そんな時はモチベーションが上がります。
- 病棟に入って来た新しい患者さんは、最初はどういう人かよくわからないですし、介護抵抗の度合いも掴めていないから、接し方にはだいぶ気をつけますか?
何が地雷になるのかわかりませんからね。でも、やることは結局いっしょなんです。私の場合は、新しい患者さんこそ元気で明るく笑顔で話しかけるようにします。ある程度、お互いに慣れてきて仲良くなってくると、少し「タメ語」が出ちゃったりもしますが、初めはとにかく丁寧に明るく笑顔で、これを心がけます。
- 失礼な「タメ語」はいけませんが、そうした方が相手にとっても自然で、気分よく受け止めてくれる言葉なら構わないような気もします。
本当はちゃんと「誰々さん」とお名前で呼ばないといけないんですけどね。でもたとえば元の職業が先生だった患者さんに、「先生」って呼びかけると喜んでくれたりしますから。
なんと言うか、認知症の患者さんは、その一瞬一瞬を生きていらっしゃるんですね。だからその一瞬を落ち着けるように声掛けしていきたいんです。決して嘘をつくわけではないんだけれども、時には患者さんの娘になったり、奥さんになったり、お母さんになったり、相手が私のことをそう思って話しているのなら、こちらもそれに合わせたほうがいいな、と感じる時もあるんです。

患者さんと楽しく関わる気持ちで
- この記事を読んでいる人の中には、未経験ながら認知症病棟の看護助手に興味のある人もいるかもしれません。この病棟でうまくやっていくコツみたいなものはあるのでしょうか?
うまく言葉にするのがむずかしいですけど、やっぱり広く人と関わるのが好きな人、なんだかんだ言って人と接する仕事が好きな人なら、入っていきやすいんじゃないでしょうか。相手が困っていたら手伝ってあげたいとか、おじいちゃんおばあちゃんと接して可愛いなと思う瞬間があるとか。人と関わるのがそもそも好きじゃなかったらさすがにちょっと厳しいし、排泄介助とかもあるので、それに抵抗があると難しいかもしれませんが。
でもそれぐらいじゃないでしょうか。そんなに構えることはないと思いますよ。まわりの助手さんを見ていると、やっていくうちにみんなそれぞれなんとなく関わりの深い患者さんが出来てくるんですね。もちろん患者さんの分け隔てはしませんが、お互いに人ですから、相性がまったくないわけじゃない。だから、「ああこの人可愛いな」とか個人的に思うと、その人に喜んでもらうことが頑張る意欲にも繋がっていくし、継続にも繋がってくんじゃないかなという気はします。
- 患者さんの担当は、どのように決まるのでしょうか?
担当というのは特にないです。看護師さんみたいな部屋持ち(担当)はないので、基本的には全員の患者さんと関わります。
- そうすると、毎日病棟の患者さん全員と関わるのでしょうか?
本当に自立度が高くて、自分でトイレにも行けるような患者さんは、もしかするとあまり関わらないかもしれないです。でも自立している人は自立している人で、病棟内を歩いているうちに自分のお部屋がどこだかわからなくなったりするので、あなたのお部屋はここだよって教えてあげたりもするし、基本的には出勤してきたら毎日ほぼ全員と関わるんじゃないかなと思います。
- 患者さんのほうから声を掛けられることもありますか?
もちろんあります。だいたい、何か心配ごとがあるから声を掛けてくるんですね。たとえば、ご飯を食べるのがすごく好きな患者さんだったら、そのことが気になる。だから「今日の夜ごはんも、明日の朝ごはんも申し込んでおいたからね。だからご飯来るまで待っていてね」などと伝えると安心します。
- 相手の心配事に合わせて、その心配を取り除いてあげるように接するのですね。
そこはその都度判断する感じですね。そして患者さんから名前で呼んでもらえた時は私も嬉しいです。認知症でもある程度までは覚えることができる人もいて、そういう人に名前で呼ばれるとめちゃくちゃ嬉しいですね。時々、部屋で大声を上げる患者さんがいますが、そのときも「カヨちゃん!」とか思いっきり大声で呼んでくれているのを耳にすると、なんだか泣けてきますね(笑)。

- 最後に、認知症病棟の看護助手を考えている方に、澤田さんならどのように声をかけますか?
大変な面ももちろんありますけど、単に誰かに指示されて、言われたことだけをやるのではなくて、看護助手がチームの一員として患者さんと積極的に関わる、そういう部分が認知症病棟では特に多いと思います。そして先ほども言いましたが、自分の声掛けによって患者さんが笑顔を見せてくれたら本当に嬉しいです。そんなふうに、一緒に楽しく患者さんと関わっていきませんか、ということでしょうか。
- ありがとうございました。