インタビューした先輩
グループホーム 世話人
精神保健福祉士
貝森 奈穂子
2017年4月入職

自分は相手の意思を
ちゃんと引き出せているのだろうか?
- 誠心会に来る前は、ヘルパーステーションで介護の仕事を長くされていました。転職の動機はどのようなものでしたか?
高齢者と身体障害が中心のステーションで働いていましたが、利用者さんの生活全体を見る経験をしたくなった、というのが大きな理由です。
車で移動しながら一人の利用者さんを30分程度、長くて2時間でまわる訪問介護でした。1日何回も行くこともあるので関わりが少ないわけではないし、それはそれで在宅の支えになっているという自負もありました。でも、やはり1日24時間、利用者さんの生活の全体像を見た支援を勉強したいという気持ちが出て来ました。
- 精神保健福祉士を取得しようという、何か具体的なきっかけがあったのでしょうか?
そのステーションは身体障害がメインで、知的障害を併せ持っている利用者が多かったのですが、そこに数名、精神障害をお持ちの方がいたんです。知的の支援には慣れていましたが、精神の支援がわかる職員がいなかったので、みんなで研修に行ったり他施設を見学したり、手探りで対応していました。私は社会福祉士の資格を持っていましたが、精神保健福祉士の知識があれば支援の参考になるのではないかと思って勉強を始めまたんです。
- 精神保健福祉士の勉強を始めた時点では転職までは考えていなかったようですが、結果的にはその1年後に転職したことになります。そこにはどのような心境の変化があったのでしょうか?
そのあたりはなかなか説明が難しいのですが・・・。介護福祉士の基本はやはり介護技術だと思うんです。ステーションには重度身体障害の方も多く、どういう姿勢をとれば食べやすいか、どうしたら安楽に過ごせるか、そうした視点がどうしても強くなります。もちろんそれも大事なことです。でも自分のなかで、少しそういう方向に傾き過ぎていたかな、という気持ちが湧いてきたんです。
そもそも利用者さんはいったいどのような生活をしたいと思っているのか、その意思をちゃんと引き出すこと、大きく言えば人権の尊重という感覚が、精神保健福祉士の勉強をするうちに私のなかに、より強く出て来ました。

精神の方は、ときに話が支離滅裂だったり感情の起伏が大きかったり、疎通を取るのは簡単ではなかったですが、でもそのぶん、この方はいったい何を求めているのだろう、と知りたい気持ちが強くなりました。
- 身体中心のサポートを続けるなかで、相手の気持ちをサポートするほうに徐々に意識が傾いていった、ということでしょうか。精神保健福祉士が携わる仕事にもいろいろあると思いますが、どのような転職活動をしましたか?
そのときは、精神障害の支援の分野もよく知らなかったので、ひとまず病院と福祉施設の両方を持っている法人を探しました。
自分の強みを生かせる福祉分野の仕事を引き続きやりたいとは思いましたが、医療的な視点が自分に足りないことも自覚していました。だから同じ法人のなかに医療系の同職種がいれば連携できることもあるかな、と想像しました。前職も医師会の中にあるヘルパーステーションだったので、医師も看護師も身近にいましたし、やはり医療の視点があるところがいいなという想いはありました。
その時にこちらのグループホームの募集があったんですが、小さな施設であれば細かく目配りもできるだろうし、そういうところもいいなと思いました。
あと、土・日・祝の日数分がお休みというところも良かったです。決して楽ではない仕事ですし、心身の休息をちゃんと取れることも大事なので。
本人がやりたいことを自分で出来るように
その工夫を考えるのが支援
- 実際に仕事を始めてみて、どうでしたか?
入居者さんはこんなに自由でいいのか、と最初は驚きました。外出も自由、薬も基本は本人管理。「本当に大丈夫かな?」と心配になる方も中にはいましたからね。でも、なにかしらのサポートがあれば自分で出来るのなら、どうすれば自分自身でやっていただくことができるか、その工夫を考えればいいのだ、と気づきました。
外出のことも、ホームを離れるときは行き先を書いていくことになっているけれど、近くのコンビニ程度だと書かない人もいます。私は入居者さんの外出先を常に把握している必要があるんじゃないか、どうして書いてくれないのだろうか、などと悩みました。みなさんの安全を考えてのこととはいえ、今思えばちょっと管理的な視点でした。でも日がたつにつれて、「ああ、この方にはこういう判断能力があるんだな」ということもわかってきたし、「その辺に行ったのだろうから、まあすぐに帰って来られるだろう」と落ち着いて見守る気持ちになってきました。
- 本人にまかせておけば大丈夫な場面と、いくら本人が大丈夫と言ってもやはりリスクがある場面。 静観して良いところと注視しておくべきところの、強弱がわかってきたということでしょうか?
そうですね。人は縛られていると思うと逃げたくなるものですし、やっぱりみなさんにとってはここが家ですからね。自分の家で暮らしているのに、ちょっとした散歩までいちいち誰かに言わなければいけないのは煩わしいだろうな、と自分に置き換えて理解しようと心がけたりもしました。

いっぽうで、たしかに本人任せでは良くないときもある。そのあたりは、日々アセスメントです。今でもそうです。この7年間、入居者さんの顔ぶれは変わりませんが、置かれている状況は以前と同じではありません。自立した方を対象としたホームではありますが、高齢化もしているし、どこまで支援を厚くしていくべきなのか、毎日が手探りです。
- 静観するうちに、なにごともなく数日過ぎる、ということもあるのでしょうか?
ありますね。特に問題が起こらなければ、世話人が一日いなくても皆さんの生活は成り立ちます。そういう点では、支援する側として物足りなく思う人もいるかもしれません。でもその何気ない日常の中から見えてくることもあります。苦手なことに時間をとられてしまっているけれど、こうしたほうがもっと楽なんじゃないかな、少し工夫すれば自分のやりたいことに時間を割けるんじゃないかな、と気づいたらそういう点をサポートします。
- 苦手なこととは、たとえば?
やはりお掃除とか、片付けとか、苦手な方が多いですね。
- だからと言って、こちらが代行するわけじゃないのですね。
代わりにやるわけではなくて、この人だったらどういうペースで、どういう方法で支援すれば良いのか、相手に合ったやり方を探します。たとえば部屋の中を模様替えして、収納を変えたら、掃除や片付けを一人で出来るようになった方もいました。
あとは、お部屋でゆっくり休んで欲しいなと思いますね。談話室で他の方たちと関わりながら過ごすのも良いのですが、やはり部屋でゆっくり過ごす時間も大事だと思うので、部屋の中に着目して少しでも快適な環境に整えたりもします。
適度な距離をとりつつ
支援が必要なタイミングを逃さない
- 問題がなければあえて積極的に関わりはしないけれど、サポートが必要な時が来たらそれを逃さない。本人から求めてくればそのタイミングがわかりますが、とくに求めて来ない時には、それをどのように感じとれば良いのでしょうか?
最初から支援ありきではなくて、生活をしているみなさんの日常にふつうに関わっている、という感覚を大事にしています。あえて支援がしたいわけじゃなくて、あくまで支援が必要なときに動けるようにしておく。毎日毎日、相手との距離をつめすぎていると、その境界がわからなくなっちゃうんですね。ふだん距離をとっているからこそ、必要なときにぐっと近くに行けるというか。日ごろから近すぎると逆に警戒されてしまう。そこの塩梅が難しいんですが、そういう距離感を大切にしています。
- 本人から求められて支援することが多いのか、こちらが放任できないと思うから距離を詰めに行くのか、どちらが多いんでしょう?
どちらもありますが、本来は本人から発信されるほうがいいので、本人が発信しやすくなるような状態を保つように心がけます。ふだん何もないときから、相手が話し易くなるベースを作っておくんです。毎日お話をするのは、たぶんみなさんは雑談をしているだけだと思っていると思いますが、それは単なる雑談ではないんです。そうした会話の中に「それは本当に大丈夫?」というような話が出てくることがあるので、こちらはそれを逃さないようにします。
- 相手が何かを発信したくなったときにすぐキャッチできる距離感を作って置く。あるいは、支援の必要に本人が気付けるような会話のキャッチボールをするということですか?
そうですね。あくまでも本人主体の支援が良いので、こちらから言い出さずに向こうから言ってくるほうがいいし、ヘルプを出して欲しいなという時にこちらの気持ちが伝わればいいです。そういう関係性はこの7年間でできているとは思います。
特定の誰かに頼らない支援のかたち
- 今後、精神保健福祉士としての目標は何かありますか?
私は世話人だという自覚はもちろんあるのですが、入居者の方に一人の人間として関わらせてもらっているとういう気持ちが自分の中では大きいので、精神保健福祉士としての目標というようなものは、正直あまりないんです。
グループホームの仕事は、あまりにも強く自分の成長みたいなものを求めすぎると、拍子抜けしちゃう人もいるかもしれません。私が面接を受けた時に、もうひとり面接を受けた人がいたのですが、その人は「相談室希望で、それ以外の配属なら来ない」と言い切っていました。内定が出たかどうか私は知りませんが、その方は結局この法人に来なかったですね。あまり短期間での成長を求めすぎないほうが、この仕事との相性は良いかもしれません。

ただ、同じホームで7年続けてくると入居者さんも私も互いに勝手がわかって楽な面もありますが、自分がいなくなると成り立たなくなってしまう支援は良くない支援だと思っています。だから、入居者の皆さんたちがより自立できるように、誰が支援に入っても問題が起こらずに、自分で楽しく生活できるような環境をこれから整えていきたいと思っています。
- ありがとうございました。